だからその話

「ねえ、青いメロンソーダってのがあるって知ってる?」
真夏、往来は灼熱である。
抜けるような青空のど真ん中に鎮座する太陽からの熱線を避けるには、やはり日陰に入るのが手っ取り早い。
欲を言うなら、そこは空調が効いていればよい。さらに座る場所があって、冷たい飲み物があれば、なおさらよい。
「メロンソーダの緑ってさ、別にメロンの搾り汁とかじゃないじゃない?色素を混ぜて作られてるでしょ?」
となると選択肢はかなり限られる。喫茶店か、あるいはファミレス、居酒屋のたぐいだが、食事時でないならば後者2つにはなかなか入りづらい。
もっとも、ファミレスでコーヒーだけを飲んでも文句は言われないのはわかっているが、そこが食事をとるべき場所である以上、そこではやはり食事をするべきだ。
「つまり青い色素を使えば、青いメロンソーダも作れるってことなのよ」
だから俺たちは喫茶店にいる。
そこは休憩を取るべき場所であり、かつ最初に挙げた避暑に望ましい条件を完全に満たしているからだ。
こんな言い方をすれば、喫茶店を営む人には失礼だろうが、夏ともなれば単に涼みたいから入ってくるだけで、別にコーヒーのおいしいおいしくないはあまり関係ない。
「でもメロンソーダってさ、別にメロンの味じゃないよね」
ああ、欲を言うなら、喫煙席が欲しかったとも言っておくべきだった。
喫煙席でなくてもいい。喫煙スペースでもいい。そこがわずか一畳のスペースでも文句はないさ。
とにかく紫煙の吸って吐くをできるならどこでもいい。
「なんていうの……メロンソーダ味?いうなれば」
しかし、禁煙か。禁煙ね。どうして"禁止"されなくてはならないのだろうな。
タバコは副流煙の方が害が大きいから、そりゃ無法地帯っていうわけにもいかないのはわかる。
そうだとしても、なにも禁止と大々的に銘打つ必要はないだろうが。分煙でいいんじゃないか。
タバコを吸うやつ、吸わないやつでアクリル越しに分割しておけば問題はないように思える。
「メロンの味ってどんなんだっけって聞かれたら思い出すくらいの味だよね」
でもまあ、この店に文句があるわけではないよ。
この店は喫煙席を置きたかったが、ビル全体が禁煙であるため断念したという可能性もあるからだ。
そうであるなら、店員さんにでんぐりがえってわからんちんを言っても仕方がない。
「ねえ!聞いてんの?」
「聞いてるよ」BGMとしてだけどな。「メロンソーダが青かったら、味わいも違うかもな」
「うん……だからその話」


「なあ、色味も味覚のうちに入るって知ってるか?」
メロンソーダには謎の魅力がある。
知っての通り、この緑色のシュワシュワは、別段大しておいしいものでもない。
でもさ!メニューにあると頼んでしまう!まるでそれが使命であるかのように!
「ダイエット用のふりかけってのがあるんだよ。特に味はしないんだがな?不自然なまでに青い色をしているんだ」
メロンソーダは使えない。割り材にもならないし。
味が特徴的だし、この色味のおかげで何を割っても完全にメロンソーダになってしまうからだ。
メロンジンジャーってのがあるけど、あれはメロンソーダだ。割り材に向かないんだよね。
じゃあメロンソーダは完全に孤独か?というと少し違う。
「それをひとかけしたら最後、特に味は変わらんのに"青いから"という理由で食欲が減退させられるらしいんだな」
クリームソーダだ!
アイスクリームがひとたび乗っかった瞬間!最初からこうであることを、さも運命づけられていたような相性を発揮する!
言葉だけの似非の相性じゃない。冗談抜きでお互いを引き立てあうのだ!
「つまり青い色、それも原色の青だが、それは味覚にも影響を及ぼす色なんだ」
上に乗ってるアイスがおいしいのは当たり前だが、まずこの白にメロンソーダが映える。
最初は段階だ。スプーンでアイスを押し込むように掬う。メロンソーダをまとわせるためだ。
まるで薄緑色のはごろもだ。なんて美しいのだろう……!それをまとったアイスをまず食べてみる。するとどうだ!
メロンソーダをまとったバニラ味だ!驚いたかい?
「人間は本能的に青という色を食べ物と認識しないそうだ。理にかなったダイエットだよな」
次第にアイスがやや溶けてくる。すぐに、さっきのはまだ第一段階に過ぎなかったということに気づくだろう。
この半溶けのバニラアイスとメロンソーダの相性たるや!
クリームソーダに入っているのはメロンソーダとバニラアイスだけじゃない。氷も入ってるんだ!ごく小さい粒の奴が!
これを利用してジャリジャリ進んで行くと、見たことか?そこが天国だ!
メロンソーダが炭酸であることに、そして沈んでいる氷のミニ粒に感謝する!おいしすぎて毎日晩ごはんがこれでもいいくらいだ!
「青い食べ物で思い浮かぶものなんかあるか?この本能には、人類はまだ勝ててないというわけだ」
最後になりますが、もうこうなったらアイスを溶かしてバニラメロンアイスソーダwithミニ粒にするほかあるまい!
そしてそれを飲んだら最後だ……あまりのクリーミィふわふわソーダ感にむせび泣く暇があるなら、すぐに2杯目を頼め!!
「おい!お前聞いてんのかよ」
「聞いてるよ」効果音としてだけど。「結局青い食べ物はおいしくないってことでしょ」
「ああ……だからその話」


公開:2023/6/28

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